ふたり

ゆかと敬は全く違う人生を歩んできて別々に死んだ。男と女が入れ替わり新しい人生が始まった。

逃亡3 

 静岡で新幹線に乗り換えた。敬は疲れたのかずっと寝ていた。私も同じ席で仲の良い兄弟のように肩を寄せ合って寝ている。だが私は自分の体から抜け出した。社内の中を歩き回って追手がないか調べた。どこにもそういう怪しいものは見つからなかった。
 車掌の手のスマホを見て吃驚した。病院にいた時の敬と私の写真が写っている。やはりもう外を調べ始めている。車掌がこちらに向かってきた車掌に話しかけている。
「これなんだ?」
「精神病院から逃げ出したらしい」
「人を傷つける恐れありとあるな」
 これは危ない。敬の格好を何とかしないと。私は座席をすり抜けながら子供の野球帽に手をかけた。服の中に入れると消える。体に戻るとすぐに敬の頭に野球帽を被せる。
「何を被せるの?」
「もう指名手配されている。帽子を被って私の胸に顔を寄せていろ」
「なんだかオッパイが気持ちいい」
「気持ち悪いよ」
「捕まるとどうなる?」
「恐らくモーレツに実験をされる。それで子供を産まされる。死ぬかも?」
「すると私も処分される?」
「カップルだから」
「せっかく生き残ったんだからまともな人生を送りたいのよ」
「私も」








2017/08/19 Sat. 06:49  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

逃亡2 

 幸いに始発のバスが止まっていた。近づくとドアが自動に開いた。
「見ない顔だな?」
 運転手が声をかける。
「このホテルに泊まっていた」
「そうか。違う運転手出来たんだな。もう少し待ってくれ。ここからは姉妹が乗ってくる」
 私は敬の肩を抱えて一番後ろの席に座る。
「この鞄うさぎのピンクはゆかの今の格好では似合わない。私が持つわ」
 私は後ろを振り返ってみている。もう陽が昇っていて病院の死体置き場の3階建ての建物の一部が見えている。
「この後ろに建物があるのですが?」
「ああ、あれは前嶋伝染病棟さ。今は2代目になって研究室になっているそうだ。時々医者たちがこのバスに乗る」
 姉妹が走って乗ってきた。同時にエンジンがかかる。
「まさかバスに乗ったと思っていない。でも病院中探したらやってくるよ」
 ゆっくりと山が遠ざかっていく。漁港に着くまで20人ほどが乗ってきてその半分がそのまま駅に入る。ここは単線だがプラットホームに両方向の列車が停まった。
「東京に行く?」
「いや、大阪よ」
「大阪にいた?」
「ドラックで運ばれるまで大阪にいたの」
 草の径は子供の時に預けられていた祖母の裏庭だ。大阪では夢にまで出てくるところはない。





2017/08/18 Fri. 06:16  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

逃亡1 

 まだ敬の力が弱いが何とか私の鼻を抓むことに成功した。私が起きたことでもう一人の私は消えた。すでに電源室の電気は落とした。これで部屋の扉は自由に開く。用意していた箪笥の中のピンク色の鞄を肩にかける。この中には看護婦の机の上の時刻表も入れた。敬に連れられて敬の部屋に入る。
「私鼻を抓んでも起きなかったら?」
「心配しないで」
 敬の鼻を抓むともう目を覚ましてもう一人の敬は消えた。そのまま急いで隣の部屋のトイレに向かう。これも何度も通り道を調べている。腕時計も医師の机から取ってきている。閂を開けて守衛室まで歩く。いつもより思ったより時間がかかっている。だがバス停では8時まで待たなければならない。
「道ってこんな感じだったんだ?」
 敬ははしゃいでいる。
「二人で逃げる仲になったね」
「バス停で待つ?」
「いや、ホテルの裏側から中に入れる。ここはいつもがら空きだから部屋で服を着替える。そのためにいつも来ていない服を持ってきた」
 部屋の引き出しから鋏を出してきた。これも前に調べていた。私はジーパンにTシャツに着替えると、思い切りバッサリと長い髪を切った。
「どう。兄貴になった?しばらく兄弟でいこうかしら」
 腕時計を見ると7時30分になっている。




2017/08/17 Thu. 06:49  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

外12 

『頼んでいた新しいジーパンとTシャツと敬のも用意して引き出しに入れたわ。靴は互いの前の靴が入っているわ』
 看護婦がメモ用紙に書いて渡す。
『何も聞かないでね。カップルの女の方は?』
『死にました』
 看護婦も今回の事件でこの病院の恐ろしさを知ったようだ。
「今日からベルトは外しますよ。だからパンツも履かない」
「方針が変わった?」
「新しいカップルが入るそうよ。今度は子供よ。どうも年齢が高いほど成功は難しいと医師が言っていた。でも12歳と8歳なのでセックスの実験は出来ないようよ」
『怖いわ』
『いつから彼らが来る?』
『もうカプセルに入っていて看護婦も決まった。明日調子が良ければ隣の部屋にデビューよ』
 その時を狙うか。
『新しい文庫本買ったね?』
『どうして分かるのか知らないけど。同じ机の上に時刻表を買って置いたわ。もう3か月後ここをやめるの。それと医者の話を聞いたけど、今度二人の体に位置情報を埋め込むらしいよ』
 それは不味い。





2017/08/16 Wed. 06:47  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

外11 

 敬も自分の力で草むらの径に出れるようになった。そこから年長のカップルの病室に行く。女は眠らされている。だが男のカプセルは空っぽだ。手術室に行く。
「手術台に乗っているの彼だよ」
「ああ」
 医師と医院長が男を覗き込んでいる。男は涎を流して白目をむいている。
「狂っています」
「馬鹿な奴だ。多大の実験費を無駄にして」
「どうします?」
「処分するんだ」
 医師は用意していた注射を腕に刺す。すると白目は閉じられてガードマンが車椅子に乗せる。
「女の方は?」
「駄目だ処分だ」
 私たちはモルモットだ。私と敬はのろのろと車椅子の後をついていく。あの建物のドアが開いて暗がりに灯りがともる。エレベーターに乗せられて3階に上がる。すでに殺処分が決まっていたのか空のカプセルが置かれている。
「悲しいね」
「そうね」
 カプセルが閉められて『999』番のプレートがぶら下げられる。次は相棒の女が『1000』番だ。
「今日荷物を鞄に詰め込んだ」
「いよいよだね」








2017/08/15 Tue. 06:48  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △