ふたり

ゆかと敬は全く違う人生を歩んできて別々に死んだ。男と女が入れ替わり新しい人生が始まった。

夢2 

 夢の中の夢、それは現実なのか。
 私はベットに寝かされている。能面のような看護婦が入ってくる。私がこの病院に運ばれてもう1年にはなるようだ。それはこの看護婦が言うだけのことで、私は危険ドラックを吸って交通事故を起こしたらしい。記憶は全くない。顔以外はカプセルの中にあって身動きが取れない。
「どう気持ちいい?」
「私は何歳ですか?」
「カルテには♂17歳とあるわ。藤崎徹と書いてある」
 ここは個室になっていて彼女以外顔を合わせることはない。医院長という男が何度か顔を出すだけだ。手術は全身麻酔でするので記憶がない。
「体が動かないのに立つなんで変よね?」
「ああ!」
「口に出しちゃダメって言ってるのに!」
 この記憶はあの記憶とどちらが夢でどちらが現実なのか。この辺りがますます混沌してきてる。
「この部屋に鏡はないのですか?」
「見せないにと指導されているの」
「交通事故で酷いことになっている?」
「見ない方がいい」
「他の患者は?」
「知らないわ。ここは一人看護婦専従なのよ」
「場所は東京?」
「いえ東京から離れた半島だよ。それで欲求不満になってんだから」





2017/06/22 Thu. 06:09  edit

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夢1 

 見慣れた空地の草むらの細い径を行くと、大きな倉庫のような建物にぶつかる。こんなところにこんな建物があった記憶がない。だがこの空地は私の実家の納屋に裏にある昔祖父が耕していた田んぼだ。祖父が死んでから祖母が少しずつ体力がなくなってもう表の畑だけになってしまったのだ。その畑も祖母の死からたった1年で草むらに返った。
 建物の中にもその径は続いている。建物の中にも草むらは続いていてここには青い空がない。空は金属色で雲がない。果てしなく続く径を歩く(この間の記憶がない)と、どういうわけか突然街の裏通りの路地に出てくる。もう何度かこの径を通っている。
 ドアを開ける。
「ゆか!今日は遅いね」
 ゆか?
「ええ」
 そうだ夢の中ではゆかだった。私はスカートをはいている。鏡を見る。ショートカットでこれは私の顔じゃない。だが自分の顔をもう思い出せない。いつからこうなったのか。私には思ったより可愛らしい胸がある。それに股間にはあるべきものがない。
「私いつからここにいた?」
「そうね。もう昔からのような気もするけど、ほん昨日のような気もするよ。私もその辺りが分からないのよ」
「ここに来る仲間は?」
「みんな同じようなものよ」
「どこに住んでいる?」
「どこに住んでいるのかしら?でもみんなここに集まってくる」
「ここの空ってなんであんな色をしているの?」
「空ってどんな色してるの?」
「私の知っているのは青色よ」




2017/06/21 Wed. 06:51  edit

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消える14 

 1週間かけて小山の単行本に私の気持ちや情報を書き加えた。冴が戻ってくる時間になっていたが恐ろしく眠気が迫ってきた。それで最後の力を振り絞ってそのフォルダーを新しい冴が買ってきたピンクのUSBに取り込んだ。だがそのままパソコンの上に眠り込んだ。
 私は草むらの径に立っていた。向こう側に祖母の小屋の屋根が見える。不思議に今日の畑はしっかり畝が耕されていて、小さな芽がたくさん出ている。
「私がゆかが来る前に蒔いた」
 敬の顔が木陰から覗く。
「どうした?」
「待っていたよ」
「遂に死ぬのか?祖母は?」
「私だけ。草ぼうぼうの畑を耕した。いつもゆかにここの話を聞いていたからすぐにこれた。冴と暮らしていた?」
「ああ、冴には世話になった」
「ゆかは一度死んだ場所に戻る。それからここに戻ってきて?」
 敬の声の後急に画面が崩れて私は運転席に座っている。助手席にドラッグの袋が空になって置かれている。気持ちが高揚してきてエンジンをかける。思い切りアクセルを踏む。目の前にトラックが迫る。この次に私はゆかになるのだ。
「やっぱり来たね?」
「死んだのか?」
 敬はいつの間にか長い髪を垂らした少女になっている。それはゆかの体だ。ということは?
「立派な青年よ。これからはふたりでこの畑を耕す。出来たらこの裏の草むらも耕すのよ」
 これは祖母に言われていたことだ。
「ふたりで冴と最後の別れに行こうよ」
 私の背中に買い物袋を抱えた冴が軽く叩く。私と敬はその冴を正面から見ている。みるみる冴の顔から涙が溢れてくる。冴は私を抱き起すと布団に運ぶ。私の肩を敬が抱く。しばらく項垂れていた冴が立ち上がってパソコンを見ている。私は全身の力を集中させる。
 ことりとピンクのUSBが動いた。
「ゆか来てるのね?ふたりは一緒になったのね」



           (完)
                         夢人


『ふたり』の終わりに差し掛かって、再び歴史ものが書きたくなって、この最後の章がどうしても
書けない時期が続きました。私は一気に書き上げる時と、こうして長く立ち止まる時があります。
大半の小説は夢で見たところから出発しています。この『ふたり』は最後になって全く夢に出て
こなくなったのです。その時歴史ものの夢を見てしまったからです。それが同時に書き始めた
『夢の橋』でした。この夢は私が大学を出て初めて東京に出た頃の景色が一杯出てきます。
蒲田の立ち飲み屋に好きな少女がいてよく通いました。







2017/06/20 Tue. 06:05  edit

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消える13 

 あれから3か月経った。敬が言っていたようにどこか体が重たくなってきた。冴が空港に働きに行くと私はあの医院長の日誌を読み返している。疲れたらテレビをつける。
 最近は与党内で激しい派閥争いが続いている。野党の幹事長自らが派閥を率いて与党に35人を率いて入党をした。これは評論家は副総理の画策と説明している。これで与党内の副総理の数が上回ることになる。そこで総裁選が行われることになって4人が立候補したと。もし今の総理が破れるとまたメレンゲが復活してしまう。でももう私には何の働きもできない。
 8時に冴が買い物袋と包みを抱えて帰ってきた。
「ビール飲む元気ある?」
「少し貰うよ」
 冴は刺身を皿に並べてオリオンを抜く。
「今度は?」
「小山がいよいよ『メレンゲ』と言う単行本を出したのよ。その第1版を送ってきた。これは話題になるわ」
 そこに手紙が入っていた。
『・・・ここには今まで書かなかった部分をかなり入れた。それとメレンゲと言う組織ではなくゆかと敬の物語として書いた。二人の持っている不思議な力も具体的に描いた。それはこの事実を歴史から消してはならないと考えたわけだ』
 小山の気持ちが伝わってくる。
「私と敬が生きていた記録ね?」
「何言うの。ゆかはまだまだ生きるわ」
「とにかく読んでみる。それから付け加えたいことをまとめるから送ってね?」
 2本目を飲み終わった時私は急に冴の唇を吸って押し倒した。
「どうしたの?」
「冴、最近だんだん男だったころを思い出している。男の気持ちで抱きたい」
「ゆか入れて」





2017/06/19 Mon. 06:49  edit

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消える12 

 草むらの中のどこにも敬はいない。
 冴の力を借りて敬を火葬にした。灰を沖縄の海に撒いた。私は敬と会った病院からの日々を思い出して記録を残そうとしている。1か月ほど部屋に籠った。冴はその間に二人が密航をしたと言う噂を撒いた。その効果か特捜も公安も消えた。今日は珍しく夜に初めて卸売市場の2階へ冴と行った。男装をしている私と冴なら恋人同士に見える。
「私ももうすぐね?」
「そんなことはないわ」
「いや、みんな死んだ」
「ゆかは別よ」
「私の中に敬がいなくなった」
「小山覚えているね?」
と言うと鞄から包みを出してきた。
「会社に小包として届けてもらった。彼はまだあのシリーズを書いている。それで火事のあった自宅の書棚でこの日記を見つけたの」
 かなり分厚い日記だ。だが3冊のうちの最後しか残っていない。私は2時間も黙って読み続ける。冴は黙ってビールを注いでくれる。これによると実験が失敗だったと言うことだが、ゆかと敬のカップルは興味があると書いている。普通のカップルは無造作にくっつけたもので心の交流がない。だがゆかと敬のカップルは愛していたと書かれている。
 医院長は愛というものを度外して研究をしてきたと後悔している。それが今自分の前に立ちはだかっているとも書いている。これは自殺する前日に書かれたものだ。息子が死を望まなかったらそのことを調べて見たかったに違いない。
「冴、もうすぐ死ぬから灰を海に撒いてくれ」
「そんなこと言わないで」



2017/06/18 Sun. 07:08  edit

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