ふたり

ゆかと敬は全く違う人生を歩んできて別々に死んだ。男と女が入れ替わり新しい人生が始まった。

夢10 

 夢の径で思い切って草をむしってこちらの町に来た。今日は敬が先に来ていて窓の外を見ている。
「早く来た?」
「今来たところだよ」
「ここに来るまでの径で草をちぎったのよ」
 私はぼけっとに手を入れて握ってみる。だが手のひらには何もない。
「何もないね?」
「と言うことは私が通ってくる径は夢なのね?」
「と言うことは僕が通ってくる径も夢と言うことになるね?」
「だからみんな違った径の夢を見ている。私のところの看護婦が新しくなった」
「こちらは初めから同じ人だよ」
「この看護婦の言うにはこの部屋ではカメラで監視されているそうよ。恐らくこうしてしゃべっているのも録音されていると思う」
 私は備え付けられているメモ用紙に書き込む。
『重要なことはこれからここに書き込むようにしよう?』
『いいよ』
『じゃあこの白紙の用紙をポケットに入れて』
『それでどうするの?』
『敬はいつもパジャマからその服に着替える記憶ある?』
『ないな』
「今日は部屋に入ってキスをしない?」
「なんだか変なだな」
「私が嫌い?」
「何か自分を抱いているような気がする」








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2016/12/31 Sat. 07:16  edit

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夢9 

「始めまして」
 新しい看護婦が入ってきた。少し年配だが優しそうだ。
「前の看護婦さんは?」
「退社したわ。ここは給料はいいけど寂しすぎると言っていたわ。あなたは少し悪い症状が出ていると言う注意を医院長に受けている」
「悪い症状?」
「このカルテには現実と夢が区別できなくなっているとあるわ」
「そうなんです。この病室の私と隣の町の私はどちらも現実?」
「隣の町に入ったことがないからわからないわ。だけどそこで学習していると記載されているわ。私たちは病室だけが仕事場だから。彼女も隣の町に入ったことがないと言っていた」
「私がこの病室を出るのを見たことがあるって言っていた?」
「この管理表ではあなたが寝たのを確認して仕事が終わると書かれている。だから出ていくのを見ることはないわね」
 看護婦はカプセルを空けてパジャマを脱がせて全裸にして隅々まで点検をする。これは今まで通りだ。この時に前の看護婦は私のものを吸った。だが今はそのものはない。
「ここ使った?」
 クリトリスを開いて覗き込んでいる。
「トイレで使った」
「セックスでは?」
「まだ」
「スケジュールが遅れているようね。相手の体調がよくなかったようね?」
「そう書いてあるのですか?」
「ええ、ここは向こうの町の管理者が記入している。だからどちらも現実のことですよ」
「どちらも現実?」









2016/12/30 Fri. 07:11  edit

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夢8 

「敬は?」
「あの子はしばらく顔見ないね」
 年上の女性が珍しく私のテーブルに座る。
「あなたは昔の記憶残っている?」
「ほとんど覚えていない。ただ看護婦に危険ドラックで交通事故を起こしてここに運ばれてきたと聞いた」
「あなたの看護婦結構しゃべってくれる人なんだ。私の看護婦は仕事以外は何にもしゃべらないのよ。でもね、そっと診断書の写真を見た。ショックだった」
「何がショック?」
「顔顔よ」
「これ不思議に思っていることなんだけど、私たちカップルとして作られたような気がする。ひょっとして私の顔は敬の顔に似ているのじゃないかと?」
「私の場合はそれはないと思うわ。今の彼の顔気に入っているから」
 その彼が部屋に入ってきた。
「ゆか一緒に部屋に入らない?」
「敬を待ってる」
 二人が部屋に入ってしまうと部屋は私一人になる。それで思い切ってドアを開けて自分の入ってくる通路を調べてみようと思う。ドアに手をかけるがうちからは開かないようになっているようだ。何度も押しているうちに頭が割れるように痛くなる。それで帰るときはどうしているのだろうかと考える。だが帰るときの記憶がない。
「あれ敬」
 敬がボーとした顔で部屋に入ってくる。
「ずっと体調がよくないんだ」
「休んでいたらよかったのに?」
「無理矢理に起された気がする」








2016/12/29 Thu. 06:56  edit

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夢7 

「久しぶりだな」
 敬がドアから入ってくる。もう何日も敬の姿を見ていない。
「久しぶりかなあ」
 実感がないのだろう今起きたような目で私を見ている。
「手術していた?」
「そうらしい。ゆかも手術したわけ?」
「らしい。初めて触れたが凄く感じた。敬はオナニーした?」
「まだ」
 敬の顔はどこかで見たようで懐かしい。
「教えようか?そちらは長いのでね。向こうの部屋に入る?」
 敬は頷いて男らしく部屋のドアを開ける。もう3つの部屋は閉まっている。私たちが一番最後だったのだろうか。私は服を脱ぐと自分でも驚いて体を見る。
「綺麗ね」
「昔の自分を見るようだよ。私はちょっとしばらく慣れない」
 逆に私にとって懐かしい。ゆっくり掴むともう手の中で反り立っている。いつの間にか口の中に含んでいる。
「気持ちいい?」
「うん」
 まだ慣れないのかもう口の中で破裂している。
「こんな味がするんだ?」
「本物かしら?」
「確かめる時もくる」
 








2016/12/28 Wed. 06:49  edit

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夢6 

「いつも夢を見るけどどちらが夢なのかわからないんだ」
 入ってきた看護婦に声をかける。
「そうねここにいるというのもそうかもしれないね」
「ここを出ると街があるんだけど?」
「そんなところあるの?ここは山と海ばっかりと思っていたけど」
 あの街も夢の中かも知れない。
 ドアが開いて白髪の医者が入ってくる。急に看護婦が慌てて口を閉ざす。
「体調はどうだ?」
「はい」
「下のものは使ったか?」
「いえ」
 この医者は私が男から女に変わったことを知っている。
「使ってみろ。あのカップルの少年も手術が終わったから出てくるだろう」
「こちらと向こうのどちらが現実なんですか?」
「どちらも現実だ」
「と言うことは私の過去はもうないんですね?」
「昔の君はもう死んだのだ」
 そう言うと看護婦に何やら注意をしてドアを出ていく。
「担当の医師?」
「いえ、ここの医院長よ。私もめったに会わないけどね。今退職願を出しているから次は来れないかもね。でもここを出る時は私たちみんな記憶を奪われるの」



2016/12/27 Tue. 06:57  edit

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夢5 

 いつのも草むらの径を抜けて街に入る。周りを見渡すが人影がない。足は意志とは無関係にリビングを目指す。リビングに入るといつもの窓際の席に腰を掛ける。窓の外は隣の煉瓦造りのビルの壁があるがどこにも窓はない。そう言えばこのビル以外には出たことがない。
「敬は見ない?」
 隣にいるここでは最年長の女性に声をかける。隣にはカップルの男性がじろりと見る。
「手術をしていると言うことよ。あなたも久しぶりよ」
 時間の感覚がない。
「あなた達もう隣の部屋に入った?」
「隣の部屋?」
「入ったことがないのね?ベットルームが4室あってね、もし何なら彼を貸すからどう?」
「いいです」
 私は敬の来るのを諦めてトイレに入る。うちから鍵をかけてセーターを捲って鏡に乳房を映しだす。まだ違和感がある。触ってみるとつんと乳首が立つ。恐る恐るスカートをおろしパンツを下げる。つるんとした狭間が見える。指先が震えている。この感触は初めてのものだ。
 これが私のクリトリスか。擦ってみるとぞくっと頭に痺れが走った。両指で拡げてみる。ピンク色のぬめりが伸びる。
「いつまでかかってるの!」
「ごめんなさい」
 ドアを開けると別の女性だ。
「変なことしてたんじゃ?」
「そんなこと!」
 だがまだ体に快感が残っている。








2016/12/26 Mon. 06:52  edit

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夢4 

「どう?」
 看護婦が顔を覗き込む。
「どうって?」
「もう3日も寝ていたのよ」
「どうして?」
「体の手術があった。これで舐めてあげれなくなったわ」
「よく夢を見るんだけど、何だか夢でないような気持ちなんだ」
「そうね。ここにいるのも夢かもね」
 この話もいつ話したのかも覚えていない。
「私ね、あなたを最後にここをやめようかなと思っているの」
「何年いる?」
「そうね。もう5年になるかな。あなたで3人目よ」
「やめたらどうする?」
「私はスナックをやろうかと思っている。ここは金だけはいいからね。でもね」
 看護婦がカプセルの中の体を拭いている。あるべき突起物の感覚がない。
「ここだけの話だけどね。ここを出る時はね、頭のクリーニングをするのよ」
「頭のクリーニング?」
「ここでの記憶を消されるのよ」
「どうして?」
「そういう契約なの。でも記憶を消されるって怖いのよ」







2016/12/25 Sun. 07:03  edit

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夢3 

「なぜ私のことゆかと呼ぶの?」
 ここに来て親しくなった敬と言う少年に尋ねる。彼は15歳と言う。私より2つ下だ。
「ゆかがここに連れてこられた日にその医師から紹介があった。だから僕の方がここでは先輩だと思うよ。だけど・・・」
「だけど何なの?」
「ここにいるみんなに言えることだけど、昔のことをほとんど覚えていない。現在にしても記憶が消えていくようだよ」
 敬たちが集まるのはリビングという場所だ。ここでコーヒーを飲み食事をとる。どういうわけかいつもここに来て座っている。この部屋には8人が同じ顔触れで集まっている。男女半々で上は24歳下は敬の15歳だ。この部屋にはトイレにも入り口にも鏡がある。私はゆかである自分の顔を見るが他人を見ているような気がする。だが女としては気に入っている。
「どうこの顔?」
「僕の好みだな。体もいいよ」
「敬は女の子のような顔してるね?」
 二人はここでは一番若い。
「ここに入る建物への径は草むらじゃないの?」
「いや違う。僕の場合は灰色の長い廊下だよ」
「違うところに住んでいるのかしら?」
「看護婦はいる?」
「いるよ。髪の毛を染めた女だよ」
 やはり看護婦はみな違うようだ。どれほど話していたのか敬も私も眠くなってきた。敬がぬすっと立ち上がってドアを出ていく。私が手を振ったが彼は振り返りもしない。そういう私もいつの間にか立ち上がっていてドアを開いている。目の前を草むらの径が続いている。







2016/12/24 Sat. 06:47  edit

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夢2 

 夢の中の夢、それは現実なのか。
 私はベットに寝かされている。能面のような看護婦が入ってくる。私がこの病院に運ばれてもう1年にはなるようだ。それはこの看護婦が言うだけのことで、私は危険ドラックを吸って交通事故を起こしたらしい。記憶は全くない。顔以外はカプセルの中にあって身動きが取れない。
「どう気持ちいい?」
「私は何歳ですか?」
「カルテには♂17歳とあるわ。藤崎徹と書いてある」
 ここは個室になっていて彼女以外顔を合わせることはない。医院長という男が何度か顔を出すだけだ。手術は全身麻酔でするので記憶がない。
「体が動かないのに立つなんで変よね?」
「ああ!」
「口に出しちゃダメって言ってるのに!」
 この記憶はあの記憶とどちらが夢でどちらが現実なのか。この辺りがますます混沌してきてる。
「この部屋に鏡はないのですか?」
「見せないにと指導されているの」
「交通事故で酷いことになっている?」
「見ない方がいい」
「他の患者は?」
「知らないわ。ここは一人看護婦専従なのよ」
「場所は東京?」
「いえ東京から離れた半島だよ。それで欲求不満になってんだから」





2016/12/23 Fri. 06:57  edit

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夢1 

 見慣れた空地の草むらの細い径を行くと、大きな倉庫のような建物にぶつかる。こんなところにこんな建物があった記憶がない。だがこの空地は私の実家の納屋に裏にある昔祖父が耕していた田んぼだ。祖父が死んでから祖母が少しずつ体力がなくなってもう表の畑だけになってしまったのだ。その畑も祖母の死からたった1年で草むらに返った。
 建物の中にもその径は続いている。建物の中にも草むらは続いていてここには青い空がない。空は金属色で雲がない。果てしなく続く径を歩く(この間の記憶がない)と、どういうわけか突然街の裏通りの路地に出てくる。もう何度かこの径を通っている。
 ドアを開ける。
「ゆか!今日は遅いね」
 ゆか?
「ええ」
 そうだ夢の中ではゆかだった。私はスカートをはいている。鏡を見る。ショートカットでこれは私の顔じゃない。だが自分の顔をもう思い出せない。いつからこうなったのか。私には思ったより可愛らしい胸がある。それに股間にはあるべきものがない。
「私いつからここにいた?」
「そうね。もう昔からのような気もするけど、ほん昨日のような気もするよ。私もその辺りが分からないのよ」
「ここに来る仲間は?」
「みんな同じようなものよ」
「どこに住んでいる?」
「どこに住んでいるのかしら?でもみんなここに集まってくる」
「ここの空ってなんであんな色をしているの?」
「空ってどんな色してるの?」
「私の知っているのは青色よ」




2016/12/22 Thu. 06:53  edit

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消える14 

 1週間かけて小山の単行本に私の気持ちや情報を書き加えた。冴が戻ってくる時間になっていたが恐ろしく眠気が迫ってきた。それで最後の力を振り絞ってそのフォルダーを新しい冴が買ってきたピンクのUSBに取り込んだ。だがそのままパソコンの上に眠り込んだ。
 私は草むらの径に立っていた。向こう側に祖母の小屋の屋根が見える。不思議に今日の畑はしっかり畝が耕されていて、小さな芽がたくさん出ている。
「私がゆかが来る前に蒔いた」
 敬の顔が木陰から覗く。
「どうした?」
「待っていたよ」
「遂に死ぬのか?祖母は?」
「私だけ。草ぼうぼうの畑を耕した。いつもゆかにここの話を聞いていたからすぐにこれた。冴と暮らしていた?」
「ああ、冴には世話になった」
「ゆかは一度死んだ場所に戻る。それからここに戻ってきて?」
 敬の声の後急に画面が崩れて私は運転席に座っている。助手席にドラッグの袋が空になって置かれている。気持ちが高揚してきてエンジンをかける。思い切りアクセルを踏む。目の前にトラックが迫る。この次に私はゆかになるのだ。
「やっぱり来たね?」
「死んだのか?」
 敬はいつの間にか長い髪を垂らした少女になっている。それはゆかの体だ。ということは?
「立派な青年よ。これからはふたりでこの畑を耕す。出来たらこの裏の草むらも耕すのよ」
 これは祖母に言われていたことだ。
「ふたりで冴と最後の別れに行こうよ」
 私の背中に買い物袋を抱えた冴が軽く叩く。私と敬はその冴を正面から見ている。みるみる冴の顔から涙が溢れてくる。冴は私を抱き起すと布団に運ぶ。私の肩を敬が抱く。しばらく項垂れていた冴が立ち上がってパソコンを見ている。私は全身の力を集中させる。
 ことりとピンクのUSBが動いた。
「ゆか来てるのね?ふたりは一緒になったのね」



           (完)
                         夢人


『ふたり』の終わりに差し掛かって、再び歴史ものが書きたくなって、この最後の章がどうしても
書けない時期が続きました。私は一気に書き上げる時と、こうして長く立ち止まる時があります。
大半の小説は夢で見たところから出発しています。この『ふたり』は最後になって全く夢に出て
こなくなったのです。その時歴史ものの夢を見てしまったからです。それが同時に書き始めた
『夢の橋』でした。この夢は私が大学を出て初めて東京に出た頃の景色が一杯出てきます。
蒲田の立ち飲み屋に好きな少女がいてよく通いました。







2016/12/21 Wed. 06:55  edit

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消える13 

 あれから3か月経った。敬が言っていたようにどこか体が重たくなってきた。冴が空港に働きに行くと私はあの医院長の日誌を読み返している。疲れたらテレビをつける。
 最近は与党内で激しい派閥争いが続いている。野党の幹事長自らが派閥を率いて与党に35人を率いて入党をした。これは評論家は副総理の画策と説明している。これで与党内の副総理の数が上回ることになる。そこで総裁選が行われることになって4人が立候補したと。もし今の総理が破れるとまたメレンゲが復活してしまう。でももう私には何の働きもできない。
 8時に冴が買い物袋と包みを抱えて帰ってきた。
「ビール飲む元気ある?」
「少し貰うよ」
 冴は刺身を皿に並べてオリオンを抜く。
「今度は?」
「小山がいよいよ『メレンゲ』と言う単行本を出したのよ。その第1版を送ってきた。これは話題になるわ」
 そこに手紙が入っていた。
『・・・ここには今まで書かなかった部分をかなり入れた。それとメレンゲと言う組織ではなくゆかと敬の物語として書いた。二人の持っている不思議な力も具体的に描いた。それはこの事実を歴史から消してはならないと考えたわけだ』
 小山の気持ちが伝わってくる。
「私と敬が生きていた記録ね?」
「何言うの。ゆかはまだまだ生きるわ」
「とにかく読んでみる。それから付け加えたいことをまとめるから送ってね?」
 2本目を飲み終わった時私は急に冴の唇を吸って押し倒した。
「どうしたの?」
「冴、最近だんだん男だったころを思い出している。男の気持ちで抱きたい」
「ゆか入れて」





2016/12/20 Tue. 07:12  edit

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消える12 

 草むらの中のどこにも敬はいない。
 冴の力を借りて敬を火葬にした。灰を沖縄の海に撒いた。私は敬と会った病院からの日々を思い出して記録を残そうとしている。1か月ほど部屋に籠った。冴はその間に二人が密航をしたと言う噂を撒いた。その効果か特捜も公安も消えた。今日は珍しく夜に初めて卸売市場の2階へ冴と行った。男装をしている私と冴なら恋人同士に見える。
「私ももうすぐね?」
「そんなことはないわ」
「いや、みんな死んだ」
「ゆかは別よ」
「私の中に敬がいなくなった」
「小山覚えているね?」
と言うと鞄から包みを出してきた。
「会社に小包として届けてもらった。彼はまだあのシリーズを書いている。それで火事のあった自宅の書棚でこの日記を見つけたの」
 かなり分厚い日記だ。だが3冊のうちの最後しか残っていない。私は2時間も黙って読み続ける。冴は黙ってビールを注いでくれる。これによると実験が失敗だったと言うことだが、ゆかと敬のカップルは興味があると書いている。普通のカップルは無造作にくっつけたもので心の交流がない。だがゆかと敬のカップルは愛していたと書かれている。
 医院長は愛というものを度外して研究をしてきたと後悔している。それが今自分の前に立ちはだかっているとも書いている。これは自殺する前日に書かれたものだ。息子が死を望まなかったらそのことを調べて見たかったに違いない。
「冴、もうすぐ死ぬから灰を海に撒いてくれ」
「そんなこと言わないで」



2016/12/19 Mon. 06:19  edit

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消える11 

 冴はまだ二人が目を覚まさない前に空港に仕事に出かけるのが毎日だ。
 今日も敬が草むらに現れた。
「夢の中でね、私が女の子だった時代のことが蘇ってきた。私は仲間に虐められていたようなの。それでマンションの11階から飛び降りた」
「そんなこと思い出す?」
「分からない。11階からの最後の景色が見えた。きっとここで一度死んだのね?それであの病院でゆかと体を入れ替えられた。その時私はまだ処女だったの」
「と言うことは敬が自分で自分の処女を奪ったことになるね?」
「それが今また11階に立っているのよ」
「まさか?」
「不思議ね、敬になってからは夢だったのだろうかって?」
「夢じゃない」
「あの瞬間に戻れと」
「誰が?」
「分からない」
「あ!コンクリートが近づいてきた」
 まるでテレビが消えるようにぱっと画面が閉じた。
 朝目が覚めた。敬の生暖かい手が私の手を握っている。私はいつものように敬の体を揺り起こす。最近はすぐに起きてこないのだ。だが揺り起こしていてだんだん不安になってくる。
「敬!」
 全く反応がない。一度死んだときに戻るのか?
 私は敬を抱き上げて自分の体を思いきり抱きしめた。





2016/12/18 Sun. 06:52  edit

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消える10 

 手を引くのは冴だ。
「どうしたの?」
「特捜を辞めてここに来て二人を探していた。もう10日目よ。空港の清掃会社に勤めている。政府はメレンゲを復活することを決めた。それで秘書の消したメレンゲの資金を探している。それとゆか達」
「組んだのだな?」
 あの戦いは何だったのだろう。
 冴は清掃車を出して空港を出る。一度糸満に向けて走り出し途中から那覇に引き返す。それから裏道を抜けてアパートに戻る。ここは冴にも知らせていなかったのだ。アパートに戻ると敬は疲れたようで眠ってしまった。私は狭い部屋に並んで引かれている布団に敬を寝させる。
「敬はどう?」
「だんだん力が弱くなっている。やはり秘書が言っていたようにカップルは長く生きれないのだろうと思う。冴はどうする?」
「しばらくは特捜と公安を見張るわ」
「昔のように3人で暮らそうよ」
「いいの?」
「ああ、怖いの」
「何が?」
「ある日二人とも起きてこない日が来るような気がして」
 敬の力が弱くなっていると言うことは私も同じようなことにな気がする。
「ずっと秘書と話していたことを思い出している」
 秘書も自分の死期を感じていた。それが最後の事件を引き起こした。敬も同じように自分の死期が近いと言っている。感じるものだろうか?
「私も長くないように思うの」
「そんなに気にしないで。私が最後まで一緒にいる」








2016/12/16 Fri. 06:49  edit

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消える9 

 二人にとって穏やかな時間が流れている。ここ数日は敬も一時体調が回復したように見える。遅い朝昼食を卸し市場の2階で食べるのが日課になっている。ここは時間が止まっているようだ。敬も調子がいいのかオリオンビールを2本空けている。
「久しぶりに会ったね?」
 敬が言うのは今朝がた夢の中で草むらで二人が会ったのだ。夢の中で何時間も抱き合う。夢の中では私は女で敬は男だ。どうも今の扮装には慣れない。最近は私は自分の膣に指を入れてオナニーをする。敬を抱くのが怖いのだ。漠然と敬の中の命の炎が弱くなっていくのを感じている。
「ああ、気持ちよかった」
「本番でやってみる?」
 敬がスカートをそっと捲り上げる。見事に反り立ったペニスがある。
「私も最近自分でしごくようになった。ピューと精液が飛び出すの。これってゆかのものだったのよね?」
「初めてあの病院のベットで抱き合った時を思い出したよ。私の頭はまだ男のままで敬の体に膣を押し付けていたよ」
「私もそう。抱かれている気分だった」
「ああ、また生きれると思った」
「海が見たい」
 それで涼しい空港から海を見ようとタクシーに乗った。初めて卸し市場から外に出た。ちょうど飛行機が付いたのかゲートはごった返している。その中を抜けて海の見えるカフェに出る。だがガラスに映っているカフェを覗く男たちが見えた。特捜のリーダーの顔だ。彼は一度公安に戻ったはずだが。後ろに2人がいる。
「敬、しばらくしたら出よう」
 カフェを出ると反対側の通路を急ぎ足で歩く。だが下にも怪しい男たちがいる。これは公安のようだ。どうしたことだろう。その時私の腕を引っ張るものがいる。空港の職員の服だ。








2016/12/15 Thu. 06:49  edit

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消える8 

 私は敬が予約していた卸し市場の曲がりくねった裏路地にアパートを借りた。ホテルはすぐに調べられるからだ。1週間は即席物を中心に一切外に出なかった。敬は寝たり起きたりで私はテレビと持ってきたパソコンばかり見ている。秘書が死ぬ前に撒いた資料がネットを飛び回っている。政府は必死で否定にかかっている。
 いよいよマスコミがメランゲを取り上げた。そこで透明人間のカップルが消えたと言う情報も出ている。写真をどこで手に入れたのかテレビにも映っている。こうなると特捜が表向き逮捕することは難しい。冴の情報はどこにも出てこない。この事件で現内閣は支持率を失って寄せ集めの野党で衆議院選挙で大敗した。だが新野党内閣もメランゲの資金を当てにしていたのでよたよただ。
「外飯は美味しいよ」
 今日は昼に卸し市場の2階で初めて外食をした。今は私は男で敬は女だ。実験前の姿に戻ったことになる。私は壁にもたれてオリオンビールをもう3本空けている。今日は気分がいいのか敬も1本を飲んだ。
「ここで暮らすの?」
「そうだな」
 まだ何もかも決めかねている。秘書は自分の存在を消すことを選んだ。それに父が同意した形の自殺だ。今この親子がメレンゲの医院長と秘書と判明している。テレビでは連日特番が組まれている。私は何気なく画面を見ると見た顔が映っている。
「あれ」
「小山よ」
 一時私達と組んでメレンゲの特集をしていたのだ。ちょうど小山は二人が二人が伊豆の病院から抜け出してきたころの話をしている。すでに灰になった病院の写真を見せている。
「懐かしい」
「そうだな。あそこで二度目の誕生をしたのだからな。敬は裏庭の草の道の夢を今でも見ることがある?」
「しばらく見ていないよ」
「あの頃が懐かしいな」









2016/12/14 Wed. 06:57  edit

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消える7 

 ホテルの部屋に入ると窓に薄ら朝陽がさしている。敬はまだ眠っているようで冴が小さな音でテレビをつけている。画面には福島の病院が燃えている映像が流れている。だが報道規制がされているのか詳しい説明はない。
「成功したね?」
「凄い爆発だった。体が飛ばされそうだった。チャンネルを回してくれる?」
 冴がチャンネルを回していると公安の寮でガス爆発があり、父と娘が死んだと報道されている。これも詳しい説明がない。やはり秘書は自殺を選んだのだ。
「みんな利用されたのね?」
 いつの間にか敬が起きてきて目を擦っている。
「一番機に乗るわよ。変装の用意はできている?」
 冴は借りてきたタクシーに制服姿で運転をする。私は背広にネクタイの男装。敬はスカートをはいて女装だ。これは冴が揃えてきたようだ。
「特捜の無線ではすでに二人は指名手配されている。羽田と成田はきっとマークされているわ。公安は秘書と件で走り回っているけど特捜は完全に二人が逃げたと思っている」
 変装すると1階の駐車場のタクシーに乗り込む。
「敬どう?」
「凄い爆発の夢を見たよ」
 最近敬は私と共同体験をするようになってきている。カップルはどんどん一体化するようになってくるのか?
 タクシーは下道を走り空港内に入る。
「特捜の覆面が3台いる。少し遠回りだけど国際航路の近くに泊めるわ」
 車を停めると冴がトランクを押す。私は敬の腕を組んで新婚のように振る舞う。やはり空港内にも特捜が何人もいる。冴は巧みに彼らの後ろを抜けていく。
「まだ一般の警察を使う段階じゃなさそうだわ。私はここまでよ」
「ありがとう」
「連絡してきちゃだめよ」
 冴はそう言うと運転手らしく頭を下げる。
「さよなら」







2016/12/13 Tue. 06:58  edit

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消える6 

 冴と敬が眠った頃私は福島のメレンゲに飛んだ。地下の部屋に降りととくに変化のないことを確かめに回った。誰か調べに来た様子はない。
「戻ってきたね?」
 私の中で秘書が声をかける。
「いつやる?」
「夜中じゅうに仕組んだネットに私の文章と写真が載るわ。今まで父と飲んでいた。私の命も秒読みになってきたわ。相棒も亡くなってこれでお別れね?父はゆか達がどこまで生きていけるか自分も分からないと言っているわ。それだけは残念だと言っている」
「これからどうなると思う?」
「新しい政府がメレンゲを引き継ぐだろうと言われている。だがその柱になるメレンゲの資金はもうないわ。だから纏まらないわ。」
「特捜がすでに私達を追っている」
「公安も私と父の家を取り囲んでいるわ。もう時間が来たわ」
 秘書の言葉が終わった時、私の中の秘書が消えた。
 私は火薬の導火線に火をつけて回る。まず書類庫が爆発する。けたたましく警報が鳴る。ゆかは降りてくるボディガードの中をすり抜けて人体実験の墓場のカプセルに向かう。カプセルは千体に及ぶ。この実験はどうだったのだろうか。
「さよなら」
 その言葉が最後に聞こえた。人体実験の墓場には10倍の火薬を置いている。これを集めたのは秘書だ。いちから秘書は自分の存在を考え始めたのだろうか。
 地下室の導線にも火をつける。それを見たのかボディガードが消火ボンベを持って走ってくる。私はその前に棚を倒す。それから思い切り壁を抜ける。いくら透明人間と言えども圧倒的な爆風の影響は受ける。体が宙に浮かんでいる。同時に爆発が起こった。秘書の言うにはここには相当な爆発物がある。至る所で連続的な爆発が起こる。
「敬帰るよ」









2016/12/12 Mon. 07:02  edit

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消える5 

 私は一度敬の元に戻ることにした。敬は沖縄の飛行機も手配していて秘書が届けたバックを見せた。2千万が入っている。
「どう言うことになっている?」
「どうも上の方で政治的解決をしたようなの。もう特捜も味方ではない。秘書も公安に拘束されると言っていた。私達はモルモットに逆戻りよ」
「そんな」
「敬は羽田の近くのホテルに先に入っていて」
 私は特捜の寮から敬を連れ出す。裏口から外に出る。
「つけられている」
 敬がぼそっと呟いた。それで私は記憶にある角で細い路地に曲がった。ここは窓から見える凸凹路地だ。道路からは消えたように見える。向こう側の道路に出ると黒いタクシーがゆっくり近づいている。後ろのドアが開く。
「乗るのよ」
 冴の声だ。だが運転手の帽子にサングラスを掛けている。私は思い切って敬の体を押す。
「しばらくシートに伏せて。羽田に行くのよね?」
「特捜と公安が組んだのね?」
「誰に聞いた?」
「秘書よ」
「そう。私も昨日聞かされた。それで特捜のメンバーから外されて休暇中よ。情けない奴らよ」
「なぜ羽田と分かった?」
「敬がネットで調べていたもの。逃げるの手伝うわ」
「嘘じゃない?」
「私の中に入ってみるゆか?」
「じゃあ、羽田の近くのホテルに連れて行って」
「なら蒲田がいい私の地元だから。でもすぐに飛行機に乗らないの?」
「秘書と約束している。明日また福島に行く」
「メレンゲね?」









2016/12/11 Sun. 06:56  edit

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消える4 

 一度戻って敬にそのことを話した。手伝うと言うが今の敬の力では福島から戻ることができなくなる恐れがある。それで敬には沖縄を調べてもらうことにした。生まれて一度も沖縄に行ったことがなかった。最後は沖縄がいいと思う。今度は体を連れて行かないといけないから交通手段も押える必要がある。
 打ち合わせをするともう福島に飛んでいる。秘書から教えられた地下室の部屋に入るとダンボールに資料が積み上げてある。それにガソリン缶が運び込まれている。この重さのものをさすがに透明人間でも運べない。廊下に出ると電動の台車があった。相当前から準備していたのではないだろうか。
 秘書が言っていた地下室の奥に大きな部屋があって最近ここに実験人体のカプセルが移されている。私は夜になってガソリン缶をこの部屋に運び込む。
「大変でしょう?」
 私の中から秘書の声が聞こえてくる。
「いつ燃やす?」
「もう少し待って。今日中にメレンゲの資金を育英会に寄付してしまう。驚くでしょうね?」
「そんなことできるの?」
「だって元々私が担当していたんだよ。それと作業が済んだら一度敬のところに戻るの。それで逃げる準備を始めた方がいい」
「どうして?」
「私もゆか達も一度拘束されるはずだわ。そして体に発信機を埋め込まれる。この話も聞いた」
「敬のところにすでにバックを届けた」
「それは?」
「メランゲのお金。人間だからお金がいるでしょ?敬を見たけどずいぶん弱っているわ。一度抱いてあげるとゆかのパワーが敬に移るよ」
「作業はいつくらいに?」
「明日の夜には」
「医院長は?」
「すっかり話をした。父も賛成してくれた。ビデオテープも作って新聞社に何社か送る手配を済ませた」
「もう秒読みなんですね?」








2016/12/10 Sat. 07:01  edit

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消える3 

 シオンは無縁墓地に埋葬された。この隣に同じような木の板が立っている。私たちカップルが埋葬されている。今の政府はこの実験は存在しなかったことにしたいようだ。冴は今後の方針について話したがらないのはそのためだ。これは漏れてきた話だが公安の長と特捜の長が秘密裏に会談をしている。
 敬と私は特捜の寮の一室に入った。公安が襲ってくる恐れはなくなったようだ。曖昧な手打ちが行われようとしている。敬はやはり日毎体調がよくなくなっている。
「そろそろここから離れようよ」
「もう用なしになったんだね?」
「残りの時間は二人で生きよう。でももう少し秘書のことを見ていく」
 私は敬の横に寝ると体を抜け出した。秘書を呼び続けて空間を飛ぶ。これは特捜もこの能力を把握していない。秘書の中には白衣の青年がコンクリートの部屋の中にいる。ここはあの伊豆の病院の地下室だ。
「もう来る頃だと思っていた」
「シオンが死んだ」
「もうすぐ追いかけるさ」
 急にコンクリートの部屋がメランゲの福島の病院の一室に変わる。
「私は毎日福島のメレンゲの施設で関連資料を集めていた。だが私の能力では遠隔移動は動ける時間が制限を受けるし、戻ってくると丸1日起き上がれない」
「資料を燃やす?」
「資料だけでなくカプセルの遺体もすべて」
「私に手伝えと?」
「そう。ゆかは特捜と公安が和解の話に入ったのを知っている?」
「やはり」
「メレンゲは現内閣が引き継ぐ。だが内部資金は目をつぶると言うような話になっている。私もゆかもモルモットとしてこれからも実験を続ける。父の代わりには新しい医院長が来るようだ。父ではこれ以上の実験は無理と言う判断」
「冷たい話ですね?」
「だからこちらも冷たい返事をする」










2016/12/09 Fri. 06:56  edit

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消える2 

「敬、最後にシオンの中に入るわ」
 私は夢の中に入るコツを見つけたようだ。シオンの名を呼び続けながら入って行く。シオンの世界は原色だ。いたる空間にまったけのように男のものが生えている。全裸のシオンが横たわっている。
「ゆかきてくれたのね?私もとうとうダメなようね?」
「秘書と切られるってどんな風?」
「夢の中に秘書があの日から消えた。彼の考えることはいつも私の考えることでもあった。そうすることで彼の機能が動き出す。私は寝ていても彼と行動を共にしていたの」
「彼の中に入って話したよ」
「彼は父思いなのよ。よく体を交えながら話したよ。父の実験を何とか成功させたいと思っていた。それで自験体になった。父は息子の長生きを考えていたらしいけどね。でも本人はこの実験にはどこか疑問があった。それが秘書になってしっかりと分かったと言ってたわ」
「何が分かった?」
「人間ではないと言っていたわ」
「妄想だけしか自分の中ないと言っていた。指示されたことは淡々とやる。だがそこに自分がない」
 確かに私も指示に従って動いてきた。だが初めはそうではなかった。病院を逃げ出す頃から自分はどんどん劣化しているように思う。
「ゆかはこれからどうする?」
「これが終わったら敬と二人で生活がしてみたい。そこで消えるのかな?」
「私はもう消えるわ」
と言う急に原色がどんどん淡くなっていく。
「敬のおちんちんを思い出すわ。あれは元々ゆかのものなのね?さよなら」
 目を覚ますと敬がシオンに抱き付いて泣いている。心拍数が消えている。
「シオンにお別れを言ってきたよ」
「話ができた?」
「敬と抱き合ったのを懐かしがっていた」









2016/12/08 Thu. 07:02  edit

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消える1 

 秘書の中の青年に会って私の気持ちは揺れている。私達はこの世に存在してはならないような気になっている。
「ゆかどうしたの?」
「秘書は国会に出た?」
「それがメレンゲン本部に籠ったきりなのよ。何かあったの?」
「秘書は寿命がない。本人も感じている。しばらく様子を見た方がいいと思う。それよりシオンに合わせて?」
「分かった今から連れて行くわ」
 冴は私を乗せると30分ほど走って警察病院に入る。入口から特捜が2人張り付く。エレベーターで上がるとやはり警備の付いた部屋に入る。敬が椅子に掛けている。
「もう目を覚まさないよ」
「やはりな。秘書の中に入った」
 私は秘書と話したことを敬だけには伝えた。
「私達透明人間はそれほど寿命がないんだね?」
「秘書も覚悟している。それで最後の仕事をすると言っていたよ」
「問題ない?」
「私達の実験をすべて葬る気のようだわ」
「なら私達も消す?」
「消さなくても私たちも消える。でもこのことは内緒にするの。そして私達も最後の生を自分たちのために生きるのよ」
 私達はどちらの陣営からもモルモットなのだ。その中で私達が一番の完成品のようだ。
「敬はどうなんだ?」
「シオンのことで精一杯だったので忘れていた。でも調子はずっと良くない」
「私が動き回って敬の精も使っているのかも?」
 これは日頃から気になっている。







2016/12/07 Wed. 06:51  edit

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攻防11 

 私の前にいるのは秘書になる前の男だ。白衣を着た医師の姿だ。この時が彼の中では一番残っているのだろう。私もゆかになっているが草むらを歩く姿はいつも少年のままだ。
「私は父の跡を継いで医師になった。それは父の夢を繋ぎたかったからだ。だが父は薄命だと言われていた私を異性にしても長く生かしたかったようだ。それで実験を続けているうちにゆかや敬の成功例を作り出した。それに当時の内閣の一人が目をつけて治安部隊として資金提供を始めた」
 これが当時公安のトップだったのだ。
「だが父にはただもっと精巧なものをという気持ちしかなかった。だがメレンゲと言う組織は拡大していった。君らの成功のノウハウを使って私の実験に入った。この時私は半年も寝ていて最後の手術のチャンスとして行われた。相性実験は問題なかったが実際私の体を持った相棒は寝たままだった」
 私は彼がカプセルに入っている姿を見ている。
「それでも新しい私は父の予想通り元気な体に戻った。それでメレンゲに勤めだした。メレンゲはその頃政権をもう一度手にしようとして動いていた。それで私はその手先として秘書となったのだ」
「私は白衣を着たあなたを覚えている」
「あの頃は手術前でまだ元気だったころだ。ゆかの手術も父と携わった。君たちが交わるのも注意深く見ていた。相性は抜群だったな」
 ゆっくり車が止まった。
「私はどうすればいい?」
「メレンゲを消し去ってから私も消える。その時は父も一緒。もうしばらくそのために生かしてほしい?」
「シオンは死ぬのか?」
「死ぬ」
「私も敬も死ぬのか?」
「それは分からない。父は君らを唯一の成功例だと言っている。だがこれからどんなことが起こるかは分からない」
「これからどうして連絡を?」
「私のこの部屋を連想すれば迎え入れる」






2016/12/06 Tue. 06:50  edit

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攻防10 

 一度病室に戻り冴に見てきたことを伝える。私は敬に携帯を掛ける。
『シオンはどう?』
『今目を覚ましたけど、様子が変なんだ』
『医者を呼んで。こちらで秘書の手術が行われた。二人を繋いでいたものが切られたようなの』
『どうなるんだ?』
『あの親父の医院長はシオンがこれで死ぬと言っているの』
『やはり一人が死んだらもう一人も生きていけないのだね?』
 これは私も敬も気にしていることだ。敬の体調が最近よくない。もし敬が亡くなったら私も死ぬのだろうか。どちらにしても私たちは完成品ではないのだ。
「ゆか、急いでほしいのだけど」
 携帯を掛けていた冴が急に肩を揺する。
「どうしたの?」
「朝一番で退院をした。今特捜が後ろを追っている。やはり国会にもう一度出るようなの。でも父親の医院長は反対していたと言うの」
 冴と車に乗る。前を特捜の車が先導する。
「秘書のワゴンには父親も付き添っているようだわ。向こうも公安の車が前後を警備している」
「私一度ワゴンに飛び移るわ。いつくらいに追いつきそう?」
「そうね、飛ばして20分くらいかな」
 冴がスピードを上げて警備の特捜の車を抜く。追い越し車線を走りながら指を指す。ワゴンの背中が見えた。私は目をつむると次の瞬間ワゴンの中にいる。秘書はまだツインのカプセルに寝かされている。秘書の夢の中に入ろうとふと思った。
 真っ暗なコンクリートの部屋にいる。秘書は少年の姿だ。蹲ったまま動かない。
「ゆかだね?」
「分かるの?」
「待っていた。いつか来るだろうと思って」
「私を捕える?」
「いや、もう終わりにしたい」










2016/12/05 Mon. 07:06  edit

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攻防9 

 急に私が一人筑波の大学病院に行くことになった。もちろん冴が車を運転して特捜の応援を頼んで患者として病室に入った。冴は医師として付き切りで個室に籠る。入口には特捜のボデイガードが2人付く。
「なぜここに?」
「秘書が内々にここに運ばれたのよ」
「どうして?」
「ここは唯一手術ができる設備があるようよ。それで公安が手配した。秘書が入っているのはこことは別棟の特別室よ」
「私は?」
「夜に潜り込んでほしいの?」
 夜までよく眠って一度起きて冴と打ち合わせを済ませてもう一度眠る。もう体から抜け出している。冴が教えてくれた別棟の特別室の前に着いた。こちらは公安のボデイガードが2人付いている。問題は電波のセンサーが張られているかだ。慎重に部屋の周りを調べる。そこまでの装備をする余裕がなかったようだ。壁をすり抜ける。
「困りました」
 メレンゲの医師が同僚に言う。秘書は眠っている。いや眠らされている。もう8時を回っている。だが医師は部屋を出る様子がない。ドアがゆっくり開いて何と福島にいるはずの父の病院長の顔が覗く。看護婦がベットを運び出す。長い廊下を抜けエレベーターで手術室に入る。私はベットのそばについて移動する。
 赤々と照らされた部屋には新たに2人の医師がいる。わざわざ父親が出てきて手術とはかなり切羽詰っているようだ。
「まずあの女との回線を切断する」
「それでは?」
 4人の医師が問いかける。
「そこに新たな体を用意した。相性実験は出来ていないが応急措置で仕方がない」
「あのシオンはどうなるのですか?」
「しばらくで死ぬな」
 シオンが死ぬ?
 手術は4時間がかかって終わった。私は飛び立つように冴の元に戻る。







2016/12/04 Sun. 06:49  edit

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攻防8 

 公安が一斉に動き出した。警視庁も安全ではない。冴がラブホテルを探し出してきた。ここにしばらく姿を隠す。冴とシオン、私と敬が同室でこのホテルの周りに特捜の警備が30人体制で敷かれた。医者も来てシオンの体調を調べた。とくに悪いところは見られない。
 テレビをつけると国会中継が映っている。ちょうど秘書が映った。質問を受けて証人台に立つ。だが見た感じ顔が青白い。あのカプセルに何か装置でもついていたのだろうか。シオンはなんらかのエネルーギーを発信していたのかもしれない。ノックがして冴が隣の部屋に来てくれと言う。
 部屋に入るとシオンが白目を剥いている。
「どうした?」
「うー!」
 唸るばかりだ。敬がテレビをつける。やはり証言台の秘書も倒れている。担架が運ばれて証言は中断した。冴の携帯が鳴って聞いている。
「国会の特捜からだけど、メランゲの医師が付き添って隣室に運んだ。どうもシオンを連れ去ったことが原因ね?」
「シオンが落ち着いたよ」
 敬の声でシオンを見る。黒目になっている。
「きっと秘書に鎮静剤を打ったのよ。私と秘書はあまりにも応急処置過ぎて何が起こるか分からないのよ。あの父親の医院長が反対していたわ」
「かなり無理をしたのね?」
 冴が急に暗い顔で言う。
「内緒にしていることがあるの。実は人体実験のカップルを預かっていたよね?」
「ええ」
「残念ながらみんな死んじゃったの。やはり医院長の実験は無謀だったのよ」
 と言うことは秘書もシオンもさらに私も敬も明日がないことになる。
「でも今この実験の問題点を解明している」










2016/12/03 Sat. 07:00  edit

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攻防7 

 冴は公安の正門を塞ぐために道路公団の工事車両を3台集めた。それと救急車も1台用意してその助手席に乗って全体の指揮をしている。秘書がこの施設を出てから半日が過ぎている。その夜に私と敬が透明人間となって潜り込む。秘書に警備が付いていったので閑散としている。
 メランゲの建物に入るとシオンの部屋を調べる。やはり侵入妨害の電波の電源が入っている。前回入った時に廊下に電源が埋め込まれているのを見ていた。敬がその場所を覚えていて電源を切る。部屋をすり抜けるとシオンはカプセルで寝ている。肌着が捲れていてつんと尖った乳首が見えている。精液の臭いが残っている。秘書はぎりぎりまでシオンを抱いていたのだ。
「ゆか目を開けた」
 敬の視線を追う。シオンがゆっくり目を開ける。
「シオン思い出すか?」
「覚えている。ゆかと敬と3人でよく遊んだね?」
「動けない?」
「神経がうまく繋がっていないようなの。彼女が応急処置だからと言っていた」
 秘書を何とかするためにシオンのことは考慮されていないのだ。だが敬と二人でシオンをこの部屋から運び出せるのか。持ち込んできた警備員の制服を着せる。私が体を抱き起こすが敬は足が持ちあげれない。まだ重たいものを持ち上げるところまで来ていないのだ。仕方なく私がシオンを背負う。敬はドアを開けると電源を入れて部屋を閉める。隣の部屋が空いているのを確認していた。冴の携帯に着信する。
 ほとんど同時に塀の向こうからサイレンの音がする。窓から救急隊員が3人入ってくる。先頭の一人が冴だ。入口で押し問答がする。だが担架を持った2人が上がってくる。これは特捜隊員だ。警備員の制服を担架に乗せて毛布を被せる。僅か10分ほどの時間で救急車はもう走りだす。








2016/12/02 Fri. 06:59  edit

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攻防6 

「シオンは記憶があるよ。だが動けない」
 冴の車に乗って特捜本部に行く。特捜本部に入るといつもより警戒が厳しくピリピリしている。
「どうした?」
「どうも選挙の状況が怪しいのよ」
 冴が耳打ちをする。内閣府の顧問が来ている。
「暴露合戦になっているが、秘書の証言が強く行方が怪しい」
「あの週刊誌の記事では弱いのですか?」
「地検に圧力がかかったのだ。どうももう官僚が力関係で動き出したのだ」
「政権与党なのにですか?」
「与党と言っても負けたら野党になる。そういうことで動く派閥が多いのだ。だが今与党が負けるとメレンゲの件は闇に葬られる」
 これは私に向かって言っている。
「秘書を封じることはできないか?」
 顧問が言う。
「秘書は病院長の息子です。だが最初の実験では相棒の相性が悪くて透明人間になれないでいたのです。でも今回再手術をしてシオンで成功しています。彼は透明になって私と同じ力で動き回っています。でも今回シオンに会ってシオンは記憶を失っていないと言うことが分かったのです。それとシオンと頻繁に交わることで秘書は辛うじて動いていると」
「なるほど」
「シオンを奪還するのです」
「シオンがいなければ秘書の動きを止められるわけだな?」
 顧問がGOを出した。冴えがリーダーとなって特捜を50人を配置する。私と敬がまたメランゲの本部に潜り込む。秘書が2度目の証言に国会に行く日を選んだ。秘書の警備で公安が100人駆り出される。となるとメランゲの僅かな警備員と職員だけだ。








2016/12/01 Thu. 06:48  edit

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