ふたり

ゆかと敬は全く違う人生を歩んできて別々に死んだ。男と女が入れ替わり新しい人生が始まった。

逃亡8 

 どれだけ寝たのだろうか起きると思い切り喉が渇いて空腹だ。窓からは眩しい太陽が覗いている。
「どうしたの?」
「昔の自分を知るほど情けないよ」
「私も思い出せないけどきっと情けない人生だと思う。でもこれからどうする?」
 出来るだけ体を合わせないでおこうと言う気が二人にはある。なぜかアキラとシオンが重なるのだ。
「せっかく新しい人生をもらったのだからもう一度生きたい」
「私もよ。まず近くの店に食べに行こう」
 建物の1階に降りると管理人が興味深そうにこちらを見る。路地から商店街に出る。『橋本』という暖簾を見てガラス戸を開ける。ここはよく昼ご飯を食べに来ていた。ここの娘がよく小皿を誤魔化して出してくれた。やはり少し大人になった娘が立っている。
 おでんを頼んでビールを注文する。あの頃はいつも大瓶を1本飲んでいた。娘は敬の顔を覗き込んでいる。
「あなたにお兄さんはいない?」
「兄貴は横にいる」
「姉さんに見えるけど?」
 やはり敬は私の顔を引き継いでいるのだろうか。
「その人もおでんとビールを頼んでいた。でもここから救急車で運ばれていった。白目をむいて鼻血を出して倒れたの」
 ここで倒れて運ばれたのか。
「何時に?」
「いつもお昼に来るのに朝に顔を出したので覚えている」
「死んだ?」
「どうかな?その後顔を見ないから死んだのかも?」





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2017/08/24 Thu. 07:03  edit

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逃亡7 

 この部屋を覚えている。万年床の古いベットが置いてある。
「シオン!今日は薬を飲むな!」
「アキラも飲むのよ」
 原色の袋をビールに入れてシオンが飲んだ。それからもう一度口に含むとアキラに口づけをする。この飲み方は私がシオンに教えたものだ。シオン、シオン、思い出した。私が男だったころの彼女の名前だ。敬と私はベットの片隅にかけている。シオンはもうすべて服を脱いでいる。
「綺麗な体している」
 敬が嫉妬したように言う。アキラはズボンを下ろして押しかかる。まるで自分を見ているようだ。
「アキラはダチだった。まさかシオンの彼になるとは」
「ゆかの彼女を狙っていたのかしら?」
「どうして?」
「私も女だったころそんな気持ちがあった」
 アキラのものが異常に反り立っている。まるでナイフのようにシオンの裂け目に突き刺さる。シオンの両足がアキラを抱えている。何時間たっても果てることはない。
「怖いな」
 だが私もずっとこうしていた。これをやったらやめれないのだ。でも私たちもこうしてセックスするように仕組まれている。
「見ていると辛いな」
「ゆか帰ろうよ」







2017/08/23 Wed. 06:46  edit

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逃亡6 

 敬を部屋で休ませておいて、私は体から出て記憶を辿りながら通天閣の街を歩く。商店街の臭いが懐かしい。足が自然に前に進む。そうだ。こうして毎日歩いていた。だが歩いてくる浮浪者の体をすり抜けてい行く。商店街が突き当たると体が左に曲がっている。
 看護婦に見せてもらったカルテでは1年前に手術が終わっている。恐らくこの街には1年半か2年前までいたようだ。祖母の家からいつここに来たのだろうか。いつの間にか通天閣が見えるところまで来ている。そして串カツの呼子の横に立っている。
「おい、またあいつを抱いたのか?」
「あいつはセックス病だ。擦り切れるまで求めてくる」
「ドラックをやっているのか?」
「らしい」
 この男を知っている。だが顔を覚えているだけだ。私は石段にかけて真っ暗になっても男を見ている。心になって外にいると寒くはない。敬はもう目を覚ましただろうか。外に出ないでと念を押した。なのに横を見ると敬が並んで座っている。
「外に出ないでと」
「私はゆかに引き寄せられる。あの男は誰?」
「分からない。でも顔を覚えていた」
 人通りが消えたころ男はいつの間にか串カツ屋の半纏を脱いで皮のジャンバーを着ている。男は腕時計を気にしながら居酒屋で飲む。私と敬は居酒屋の中の空いた席に並んで座っている。
「体を出ているとお腹がすかない」
「便利ね」
「でも残された体はお腹がすいてるかも」
「そうね」
「あれ、彼女かしら?」
 男の横に長い髪の女が座っている。









2017/08/22 Tue. 06:49  edit

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逃亡5 

「よくこんなところ知っていたね?」
 うす暗い商店街を抜けて路地に入ったところにこの簡易宿泊所の建物が並んでいる。私は買ってきた飲み物とパンを床に置いて100円玉を入れてテレビをつける。
「病院に運ばれるまでここに住んでいた。この部屋に入ってそれを思い出した。ここなら住民票もいらないし安いよ」
「何していた?」
「串カツ屋の呼子だよ。あの景色を見て思い出したの」
「すべて思い出した?」
「まだまだ欠片よ」
「私捨てないでね?」
「敬は私そのものよ。恐らく二人で一人でしか生きていけないと思う」
「またテレビに映っている」
 国家が動いている。この逃亡は思ったより難しいかもしれない。
「敬、入れてくれる?」
「いいの?」
「なぜか思いきり抱かれたい気分よ。舐めてあげる」
 大きくなったものを入れてくる。
「うまくなった」
「明日からのことは明日に考えよ」
「そうだな。でもここは風呂がないから終わったらお互いに体を拭き合いしよう」






2017/08/21 Mon. 06:19  edit

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逃亡4 

 新大阪まで仕方なく二人で眠り続けた。野球帽が役に立ったのか車掌に起こされることはなかった。
「お腹すいた?」
「すいた」
「もう少し辛抱してね?」
 大阪駅に出て環状線に出る。通天閣の記憶がある。祖母が死んでから大阪で出て通天閣の見えるアパートに流れ着いた。だがまだその記憶が戻ってきたわけではない。逃げようと思った時にその通天閣の風景が浮かんだのだ。天王寺と言う駅名は思い出した。地下道を出て通天閣を通行人に尋ねた。
「いつも定時に食べさせられていたからこんなにお腹すいたのは初めてだね?」
「もう歩けないよ」
「まだ始まったばかり、頑張るのよ。ほらあれが通天閣だよ」
 やはり懐かしい。通路を串カツ屋の呼子が溢れている。見慣れた風景だ。
「これ何?」
「珍しい?」
「なんで呼び込むの?」
「昔はそうではなかったようだけどね」
「美味しい店に連れて行くよ」
 通天閣の見える道から路地に入る。テントのような寂れた店がある。座ると昔のように串カツを頼む。ビールも飲んでいたようだが控えた。野球帽をかぶった敬が指を指している。テレビに敬と私のあの写真が写っている。やはり精神病院から抜け出したとアナウンサーが言っている。敬と私は姉弟と言われている。










2017/08/20 Sun. 06:46  edit

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