FC2ブログ

ふたり

ゆかと敬は全く違う人生を歩んできて別々に死んだ。男と女が入れ替わり新しい人生が始まった。

消える12 

 草むらの中のどこにも敬はいない。
 冴の力を借りて敬を火葬にした。灰を沖縄の海に撒いた。私は敬と会った病院からの日々を思い出して記録を残そうとしている。1か月ほど部屋に籠った。冴はその間に二人が密航をしたと言う噂を撒いた。その効果か特捜も公安も消えた。今日は珍しく夜に初めて卸売市場の2階へ冴と行った。男装をしている私と冴なら恋人同士に見える。
「私ももうすぐね?」
「そんなことはないわ」
「いや、みんな死んだ」
「ゆかは別よ」
「私の中に敬がいなくなった」
「小山覚えているね?」
と言うと鞄から包みを出してきた。
「会社に小包として届けてもらった。彼はまだあのシリーズを書いている。それで火事のあった自宅の書棚でこの日記を見つけたの」
 かなり分厚い日記だ。だが3冊のうちの最後しか残っていない。私は2時間も黙って読み続ける。冴は黙ってビールを注いでくれる。これによると実験が失敗だったと言うことだが、ゆかと敬のカップルは興味があると書いている。普通のカップルは無造作にくっつけたもので心の交流がない。だがゆかと敬のカップルは愛していたと書かれている。
 医院長は愛というものを度外して研究をしてきたと後悔している。それが今自分の前に立ちはだかっているとも書いている。これは自殺する前日に書かれたものだ。息子が死を望まなかったらそのことを調べて見たかったに違いない。
「冴、もうすぐ死ぬから灰を海に撒いてくれ」
「そんなこと言わないで」



スポンサーサイト

2019/07/17 Wed. 06:44  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

消える11 

 冴はまだ二人が目を覚まさない前に空港に仕事に出かけるのが毎日だ。
 今日も敬が草むらに現れた。
「夢の中でね、私が女の子だった時代のことが蘇ってきた。私は仲間に虐められていたようなの。それでマンションの11階から飛び降りた」
「そんなこと思い出す?」
「分からない。11階からの最後の景色が見えた。きっとここで一度死んだのね?それであの病院でゆかと体を入れ替えられた。その時私はまだ処女だったの」
「と言うことは敬が自分で自分の処女を奪ったことになるね?」
「それが今また11階に立っているのよ」
「まさか?」
「不思議ね、敬になってからは夢だったのだろうかって?」
「夢じゃない」
「あの瞬間に戻れと」
「誰が?」
「分からない」
「あ!コンクリートが近づいてきた」
 まるでテレビが消えるようにぱっと画面が閉じた。
 朝目が覚めた。敬の生暖かい手が私の手を握っている。私はいつものように敬の体を揺り起こす。最近はすぐに起きてこないのだ。だが揺り起こしていてだんだん不安になってくる。
「敬!」
 全く反応がない。一度死んだときに戻るのか?
 私は敬を抱き上げて自分の体を思いきり抱きしめた。





2019/07/16 Tue. 07:36  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

消える10 

 手を引くのは冴だ。
「どうしたの?」
「特捜を辞めてここに来て二人を探していた。もう10日目よ。空港の清掃会社に勤めている。政府はメレンゲを復活することを決めた。それで秘書の消したメレンゲの資金を探している。それとゆか達」
「組んだのだな?」
 あの戦いは何だったのだろう。
 冴は清掃車を出して空港を出る。一度糸満に向けて走り出し途中から那覇に引き返す。それから裏道を抜けてアパートに戻る。ここは冴にも知らせていなかったのだ。アパートに戻ると敬は疲れたようで眠ってしまった。私は狭い部屋に並んで引かれている布団に敬を寝させる。
「敬はどう?」
「だんだん力が弱くなっている。やはり秘書が言っていたようにカップルは長く生きれないのだろうと思う。冴はどうする?」
「しばらくは特捜と公安を見張るわ」
「昔のように3人で暮らそうよ」
「いいの?」
「ああ、怖いの」
「何が?」
「ある日二人とも起きてこない日が来るような気がして」
 敬の力が弱くなっていると言うことは私も同じようなことにな気がする。
「ずっと秘書と話していたことを思い出している」
 秘書も自分の死期を感じていた。それが最後の事件を引き起こした。敬も同じように自分の死期が近いと言っている。感じるものだろうか?
「私も長くないように思うの」
「そんなに気にしないで。私が最後まで一緒にいる」








2019/07/15 Mon. 07:06  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

消える9 

 二人にとって穏やかな時間が流れている。ここ数日は敬も一時体調が回復したように見える。遅い朝昼食を卸し市場の2階で食べるのが日課になっている。ここは時間が止まっているようだ。敬も調子がいいのかオリオンビールを2本空けている。
「久しぶりに会ったね?」
 敬が言うのは今朝がた夢の中で草むらで二人が会ったのだ。夢の中で何時間も抱き合う。夢の中では私は女で敬は男だ。どうも今の扮装には慣れない。最近は私は自分の膣に指を入れてオナニーをする。敬を抱くのが怖いのだ。漠然と敬の中の命の炎が弱くなっていくのを感じている。
「ああ、気持ちよかった」
「本番でやってみる?」
 敬がスカートをそっと捲り上げる。見事に反り立ったペニスがある。
「私も最近自分でしごくようになった。ピューと精液が飛び出すの。これってゆかのものだったのよね?」
「初めてあの病院のベットで抱き合った時を思い出したよ。私の頭はまだ男のままで敬の体に膣を押し付けていたよ」
「私もそう。抱かれている気分だった」
「ああ、また生きれると思った」
「海が見たい」
 それで涼しい空港から海を見ようとタクシーに乗った。初めて卸し市場から外に出た。ちょうど飛行機が付いたのかゲートはごった返している。その中を抜けて海の見えるカフェに出る。だがガラスに映っているカフェを覗く男たちが見えた。特捜のリーダーの顔だ。彼は一度公安に戻ったはずだが。後ろに2人がいる。
「敬、しばらくしたら出よう」
 カフェを出ると反対側の通路を急ぎ足で歩く。だが下にも怪しい男たちがいる。これは公安のようだ。どうしたことだろう。その時私の腕を引っ張るものがいる。空港の職員の服だ。








2019/07/14 Sun. 07:22  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

消える8 

 私は敬が予約していた卸し市場の曲がりくねった裏路地にアパートを借りた。ホテルはすぐに調べられるからだ。1週間は即席物を中心に一切外に出なかった。敬は寝たり起きたりで私はテレビと持ってきたパソコンばかり見ている。秘書が死ぬ前に撒いた資料がネットを飛び回っている。政府は必死で否定にかかっている。
 いよいよマスコミがメランゲを取り上げた。そこで透明人間のカップルが消えたと言う情報も出ている。写真をどこで手に入れたのかテレビにも映っている。こうなると特捜が表向き逮捕することは難しい。冴の情報はどこにも出てこない。この事件で現内閣は支持率を失って寄せ集めの野党で衆議院選挙で大敗した。だが新野党内閣もメランゲの資金を当てにしていたのでよたよただ。
「外飯は美味しいよ」
 今日は昼に卸し市場の2階で初めて外食をした。今は私は男で敬は女だ。実験前の姿に戻ったことになる。私は壁にもたれてオリオンビールをもう3本空けている。今日は気分がいいのか敬も1本を飲んだ。
「ここで暮らすの?」
「そうだな」
 まだ何もかも決めかねている。秘書は自分の存在を消すことを選んだ。それに父が同意した形の自殺だ。今この親子がメレンゲの医院長と秘書と判明している。テレビでは連日特番が組まれている。私は何気なく画面を見ると見た顔が映っている。
「あれ」
「小山よ」
 一時私達と組んでメレンゲの特集をしていたのだ。ちょうど小山は二人が二人が伊豆の病院から抜け出してきたころの話をしている。すでに灰になった病院の写真を見せている。
「懐かしい」
「そうだな。あそこで二度目の誕生をしたのだからな。敬は裏庭の草の道の夢を今でも見ることがある?」
「しばらく見ていないよ」
「あの頃が懐かしいな」









2019/07/13 Sat. 07:12  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △