fc2ブログ

ふたり

ゆかと敬は全く違う人生を歩んできて別々に死んだ。男と女が入れ替わり新しい人生が始まった。

攻防10 

 一度病室に戻り冴に見てきたことを伝える。私は敬に携帯を掛ける。
『シオンはどう?』
『今目を覚ましたけど、様子が変なんだ』
『医者を呼んで。こちらで秘書の手術が行われた。二人を繋いでいたものが切られたようなの』
『どうなるんだ?』
『あの親父の医院長はシオンがこれで死ぬと言っているの』
『やはり一人が死んだらもう一人も生きていけないのだね?』
 これは私も敬も気にしていることだ。敬の体調が最近よくない。もし敬が亡くなったら私も死ぬのだろうか。どちらにしても私たちは完成品ではないのだ。
「ゆか、急いでほしいのだけど」
 携帯を掛けていた冴が急に肩を揺する。
「どうしたの?」
「朝一番で退院をした。今特捜が後ろを追っている。やはり国会にもう一度出るようなの。でも父親の医院長は反対していたと言うの」
 冴と車に乗る。前を特捜の車が先導する。
「秘書のワゴンには父親も付き添っているようだわ。向こうも公安の車が前後を警備している」
「私一度ワゴンに飛び移るわ。いつくらいに追いつきそう?」
「そうね、飛ばして20分くらいかな」
 冴がスピードを上げて警備の特捜の車を抜く。追い越し車線を走りながら指を指す。ワゴンの背中が見えた。私は目をつむると次の瞬間ワゴンの中にいる。秘書はまだツインのカプセルに寝かされている。秘書の夢の中に入ろうとふと思った。
 真っ暗なコンクリートの部屋にいる。秘書は少年の姿だ。蹲ったまま動かない。
「ゆかだね?」
「分かるの?」
「待っていた。いつか来るだろうと思って」
「私を捕える?」
「いや、もう終わりにしたい」










スポンサーサイト



2020/01/11 Sat. 08:59  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

攻防9 

 急に私が一人筑波の大学病院に行くことになった。もちろん冴が車を運転して特捜の応援を頼んで患者として病室に入った。冴は医師として付き切りで個室に籠る。入口には特捜のボデイガードが2人付く。
「なぜここに?」
「秘書が内々にここに運ばれたのよ」
「どうして?」
「ここは唯一手術ができる設備があるようよ。それで公安が手配した。秘書が入っているのはこことは別棟の特別室よ」
「私は?」
「夜に潜り込んでほしいの?」
 夜までよく眠って一度起きて冴と打ち合わせを済ませてもう一度眠る。もう体から抜け出している。冴が教えてくれた別棟の特別室の前に着いた。こちらは公安のボデイガードが2人付いている。問題は電波のセンサーが張られているかだ。慎重に部屋の周りを調べる。そこまでの装備をする余裕がなかったようだ。壁をすり抜ける。
「困りました」
 メレンゲの医師が同僚に言う。秘書は眠っている。いや眠らされている。もう8時を回っている。だが医師は部屋を出る様子がない。ドアがゆっくり開いて何と福島にいるはずの父の病院長の顔が覗く。看護婦がベットを運び出す。長い廊下を抜けエレベーターで手術室に入る。私はベットのそばについて移動する。
 赤々と照らされた部屋には新たに2人の医師がいる。わざわざ父親が出てきて手術とはかなり切羽詰っているようだ。
「まずあの女との回線を切断する」
「それでは?」
 4人の医師が問いかける。
「そこに新たな体を用意した。相性実験は出来ていないが応急措置で仕方がない」
「あのシオンはどうなるのですか?」
「しばらくで死ぬな」
 シオンが死ぬ?
 手術は4時間がかかって終わった。私は飛び立つように冴の元に戻る。







2020/01/06 Mon. 06:32  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

攻防8 

 公安が一斉に動き出した。警視庁も安全ではない。冴がラブホテルを探し出してきた。ここにしばらく姿を隠す。冴とシオン、私と敬が同室でこのホテルの周りに特捜の警備が30人体制で敷かれた。医者も来てシオンの体調を調べた。とくに悪いところは見られない。
 テレビをつけると国会中継が映っている。ちょうど秘書が映った。質問を受けて証人台に立つ。だが見た感じ顔が青白い。あのカプセルに何か装置でもついていたのだろうか。シオンはなんらかのエネルーギーを発信していたのかもしれない。ノックがして冴が隣の部屋に来てくれと言う。
 部屋に入るとシオンが白目を剥いている。
「どうした?」
「うー!」
 唸るばかりだ。敬がテレビをつける。やはり証言台の秘書も倒れている。担架が運ばれて証言は中断した。冴の携帯が鳴って聞いている。
「国会の特捜からだけど、メランゲの医師が付き添って隣室に運んだ。どうもシオンを連れ去ったことが原因ね?」
「シオンが落ち着いたよ」
 敬の声でシオンを見る。黒目になっている。
「きっと秘書に鎮静剤を打ったのよ。私と秘書はあまりにも応急処置過ぎて何が起こるか分からないのよ。あの父親の医院長が反対していたわ」
「かなり無理をしたのね?」
 冴が急に暗い顔で言う。
「内緒にしていることがあるの。実は人体実験のカップルを預かっていたよね?」
「ええ」
「残念ながらみんな死んじゃったの。やはり医院長の実験は無謀だったのよ」
 と言うことは秘書もシオンもさらに私も敬も明日がないことになる。
「でも今この実験の問題点を解明している」










2020/01/05 Sun. 08:16  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

攻防7 

 冴は公安の正門を塞ぐために道路公団の工事車両を3台集めた。それと救急車も1台用意してその助手席に乗って全体の指揮をしている。秘書がこの施設を出てから半日が過ぎている。その夜に私と敬が透明人間となって潜り込む。秘書に警備が付いていったので閑散としている。
 メランゲの建物に入るとシオンの部屋を調べる。やはり侵入妨害の電波の電源が入っている。前回入った時に廊下に電源が埋め込まれているのを見ていた。敬がその場所を覚えていて電源を切る。部屋をすり抜けるとシオンはカプセルで寝ている。肌着が捲れていてつんと尖った乳首が見えている。精液の臭いが残っている。秘書はぎりぎりまでシオンを抱いていたのだ。
「ゆか目を開けた」
 敬の視線を追う。シオンがゆっくり目を開ける。
「シオン思い出すか?」
「覚えている。ゆかと敬と3人でよく遊んだね?」
「動けない?」
「神経がうまく繋がっていないようなの。彼女が応急処置だからと言っていた」
 秘書を何とかするためにシオンのことは考慮されていないのだ。だが敬と二人でシオンをこの部屋から運び出せるのか。持ち込んできた警備員の制服を着せる。私が体を抱き起こすが敬は足が持ちあげれない。まだ重たいものを持ち上げるところまで来ていないのだ。仕方なく私がシオンを背負う。敬はドアを開けると電源を入れて部屋を閉める。隣の部屋が空いているのを確認していた。冴の携帯に着信する。
 ほとんど同時に塀の向こうからサイレンの音がする。窓から救急隊員が3人入ってくる。先頭の一人が冴だ。入口で押し問答がする。だが担架を持った2人が上がってくる。これは特捜隊員だ。警備員の制服を担架に乗せて毛布を被せる。僅か10分ほどの時間で救急車はもう走りだす。








2020/01/04 Sat. 07:11  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △

攻防6 

「シオンは記憶があるよ。だが動けない」
 冴の車に乗って特捜本部に行く。特捜本部に入るといつもより警戒が厳しくピリピリしている。
「どうした?」
「どうも選挙の状況が怪しいのよ」
 冴が耳打ちをする。内閣府の顧問が来ている。
「暴露合戦になっているが、秘書の証言が強く行方が怪しい」
「あの週刊誌の記事では弱いのですか?」
「地検に圧力がかかったのだ。どうももう官僚が力関係で動き出したのだ」
「政権与党なのにですか?」
「与党と言っても負けたら野党になる。そういうことで動く派閥が多いのだ。だが今与党が負けるとメレンゲの件は闇に葬られる」
 これは私に向かって言っている。
「秘書を封じることはできないか?」
 顧問が言う。
「秘書は病院長の息子です。だが最初の実験では相棒の相性が悪くて透明人間になれないでいたのです。でも今回再手術をしてシオンで成功しています。彼は透明になって私と同じ力で動き回っています。でも今回シオンに会ってシオンは記憶を失っていないと言うことが分かったのです。それとシオンと頻繁に交わることで秘書は辛うじて動いていると」
「なるほど」
「シオンを奪還するのです」
「シオンがいなければ秘書の動きを止められるわけだな?」
 顧問がGOを出した。冴えがリーダーとなって特捜を50人を配置する。私と敬がまたメランゲの本部に潜り込む。秘書が2度目の証言に国会に行く日を選んだ。秘書の警備で公安が100人駆り出される。となるとメランゲの僅かな警備員と職員だけだ。








2020/01/03 Fri. 06:53  edit

Category: ミステリー

Thread: ミステリ - Janre: 小説・文学

tb: --  |  cm: 0

top △